カスハラ対策が義務化に!厚労省の法改正案を受けた企業対応ガイド
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、従業員の人権と職場環境を守るため、企業にとって重要な経営課題です。2022年6月から全事業主へのカスハラ対策義務化が閣議決定され、適切な対応が求められています。
本稿では、法的根拠や企業リスクを整理し、効果的な対策方法と実践的なマニュアル作成のポイントを解説します。また、業界特性に応じた具体的な運用方法についても詳しく説明します。
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企業のカスハラ対策義務化
2020年6月に厚生労働省は「優越的な関係を背景とした言動に関する指針」を発表しました。2022年にはパワハラ防止法が施行され、カスハラ対策企業マニュアルが公開されました。これに伴い、企業には具体的な防止措置が義務付けられました。
カスハラ対策の法的根拠
政府は以前からカスハラ対策を重視しており、2020年6月に「事業主が職場での優越的な関係を背景とした言動によって生じる問題に対して、雇用管理上講じるべき措置に関する指針」を発表していました。
それまでの男女雇用機会均等法では、事業主の措置義務がセクシュアルハラスメントなどに限定されているため、一般的なカスハラに対しては対応が不十分でした。今回の改正案は、この法的空白を埋めるものです。具体的には労働施策総合推進法などに基づき、カスハラにかかわる指針が示されることになります。
この労働施策総合推進法の改正により、カスハラ対策は法的な強制力を持つ義務として位置付けられました。企業には、相談窓口の設置や対応体制の整備、従業員研修の実施など、具体的な防止措置が求められています。また、相談者への不利益な取り扱いの禁止も明確に規定され、違反した場合には是正指導や企業名の公表などの行政措置の対象となります。
さらに2022年2月には、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公開。これにより、企業が講ずべき措置の具体的な内容や、実務上の対応手順が明確化されました。
カスハラ発生時の企業リスク
カスハラを放置すれば、従業員の心理的被害や職場環境の悪化を招く恐れがあります。場合によっては休職や退職にもつながるリスクがあり、企業にとって看過できない問題となります。加えて、使用者として安全配慮義務を怠った場合、損害賠償責任を問われる可能性もあります。
潜在的リスク | 概要 |
---|---|
心理的被害 | 従業員のストレス増加、メンタルヘルス不調 |
職場環境悪化 | 従業員間のトラブル、生産性低下 |
人材流出 | 優秀な人材の休職や退職 |
損害賠償 | 安全配慮義務違反に対する補償金請求 |
従業員がカスハラに遭い、適切な対策がとられない場合、企業イメージの低下や顧客離れも懸念されます。このように、カスハラ対策は経営の根幹に関わる重要課題といえます。
企業に求められる具体的対策
政府は、企業におけるカスハラ対策として大きく分けて3つの対応を求めています。
- 体制整備
- 相談窓口の設置
- 被害者へのメンタルヘルス対応体制
- 複数人での対応体制
- 支店と本社の役割分担の明確化
- 予防措置
- 業種別マニュアルの作成
- 定期的な従業員研修
- 過去事例の分析と共有
- 個人情報保護への配慮
- 被害者保護
- 1人での対応の回避
- メンタルヘルスケアの提供
- 配置転換等の検討
- 証拠の適切な保存
特にマニュアル作成と従業員研修は中核となる取り組みです。政府のガイドラインを踏まえて、各企業の業種や実情に合わせたマニュアルを策定し、全従業員への定期的な研修を実施することが求められています。
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カスハラ対策マニュアル作成のポイント
カスハラ対策には自社の実情に即したマニュアルの策定が重要になってきます。以下では、カスハラ対策マニュアル作成のポイントを3つの観点から解説していきます。
マニュアルの基本構成
はじめに、マニュアル全体の構成について、以下の事項を盛り込むことが重要です。
- 企業方針・基本理念の明示
- 責任体制と改定プロセスの規定
- 判断基準と具体的な対応手順の記載
- 用語解説や関連法規の説明
特に業種や顧客層の特性を踏まえた上で、具体的な判断基準を示すことが重要です。例えば、飲食・小売業では接客マナーの観点から、医療・介護業では患者・利用者への配慮が求められるなど、業種ごとの留意点を明記することが求められます。
実務的な対応手順の明示
マニュアルには、実際にカスハラ事案が発生した際の対応手順を具体的に記載する必要があります。以下のような項目が考えられます。
項目 | 内容 |
---|---|
相談窓口 | 外部機関も含めた相談先の一覧と連絡方法 |
報告体制 | 報告ルート、担当部署、情報共有範囲のルール |
事実確認 | 聴取方法、証拠収集、個人情報保護の観点 |
対応措置 | 被害者支援、加害者指導、再発防止策 |
業務の実態に即した具体的なフローチャートや書式例を盛り込むことで、現場で活用しやすいマニュアルとなります。また、証拠収集や個人情報保護などの留意点も明記する必要があります。
具体的事例の収集と分析
実効性のあるマニュアル作成には、事例収集と分析が欠かせません。自社で発生したケースに加え、同業他社の事例を収集・分析することが重要です。事例を通して、カスハラの判断が難しい境界線上のケースに対する考え方を整理できます。また、良くあるパターンや特に留意すべき点を把握し、対応策を検討できるでしょう。
事例集の作成においては、以下のような項目立ても効果的でしょう。
- 従業員から顧客へのカスハラ
- 顧客から従業員へのカスハラ
- 対応に成功した好事例
- 対応に失敗した事例と反省点
事例収集は継続的に行い、定期的にマニュアルの見直しを図ることが望ましいでしょう。そうすることで、実効性の高いマニュアルを維持できるからです。
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マニュアルの実効性を高める運用
カスハラ対策はマニュアル作成だけでは不十分です。組織体制と役割分担の明確化、情報管理とセキュリティ対策、そして継続的なPDCAサイクルの確立が重要となります。
組織体制と役割分担の明確化
対応組織体制と担当者の役割を明確にすることが肝心です。現場従業員、人事・総務部門、法務部門、経営層など、全従業員のニーズを反映できる体制作りが不可欠です。
具体的には、以下の点に留意しましょう。
- 経営層の関与と責任の明確化
- 本社と支店の役割分担の明確化
- 相談窓口担当者の選任と研修
- 緊急時の連絡体制と初動対応ルール
事案の把握から対応、再発防止に至るプロセスの中で、関係部署が適切に連携し、責任を持って対応できる体制を整備することが重要です。
情報管理とセキュリティ対策
カスタマーハラスメント対応では、被害者のプライバシーや事業情報の保護が必須です。個人情報の取扱いルールや、事案の証拠書類の適切な管理体制を整備しましょう。
対策例 | 留意点 |
---|---|
事案記録の保管 | アクセス制限、書類の適正保管 |
情報共有範囲のルール化 | ビジネスニーズと個人情報保護のバランス |
担当者のセキュリティ教育 | 個人情報保護やセキュリティリテラシー向上 |
情報管理体制を確立することで、被害者の心理的ケアや適切な事案対応、そして法的リスク回避につながります。
継続的な改善サイクルの確立
マニュアルを一度作成しただけでは不十分です。定期的にマニュアルのレビューを行うことが大切です。
以下のようなサイクルを回していきましょう。
- Plan – 社内の現状把握と課題抽出
- Do – マニュアルに沿った対応の実施
- Check – 従業員アンケートやヒヤリハットの収集
- Act – マニュアルの見直しと改定
加えて、以下の点にも留意しましょう。
- 最新の法令情報や業界動向の反映
- 従業員の意見収集とマニュアル改善
- 事例の収集と対応の振返り
- 定期的な効果測定とPDCAのチェック
継続的な改善を怠ると、マニュアルが形骸化し、リスクに適切に対処できなくなってしまう恐れがあります。
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業種・業態に応じた対策のカスタマイズ
業種や営業形態・現場の地域的特色などによって顧客の特性や職場環境は大きく異なるため、カスハラ対策マニュアルを一律に適用するのではなく、細かくカスタマイズすることが重要になります。
顧客特性への配慮
サービス業の対面案内やフロントサービスのように、顧客との対面が多い業務では、顧客からのカスハラも想定しなければなりません。特に個人顧客をメインに扱う企業では、顧客の性別・年齢や言動パターンを踏まえた対応が求められます。
例えば、高齢者の接客対応では、難聴の顧客への制止言葉のかぶせなど、無意図のカスハラが発生しやすいため、周りの目線で注意喚起できる環境作りが重要です。また、一般顧客と比べて忍耐力の低い層も存在するため、初期対応時点から複数の従業員で対応できるようにすべきです。
一方、法人顧客を主な対象とする業種では、企業文化や決まり事による要求が存在することを想定したマニュアル作りが大切です。過剰な要求や違法行為には毅然と対応できるよう、あらかじめ明確な判断基準を設定しておく必要があります。
地域性を踏まえた対応
全国展開する企業では、地域によって顧客の属性や接客習慣が異なることを踏まえるべきです。例えば、伝統的な言葉づかいや丁寧語の使用を望む地方都市があれば、逆に簡潔でスピーディーな対応を好む地域もあるでしょう。
カスハラを巡る判断も地域によって異なることがあるため、様々な事例を盛り込んだ上で、判断の目安を示すことが求められます。また、言語や方言の違いから生じる誤解を避ける工夫も忘れてはなりません。
地域性の例 | 対応ポイント |
---|---|
都市部 |
|
地方都市 |
|
自社の企業文化との整合性確保
カスハラ対策は企業文化の確立にもつながるため、マニュアル作成時には、自社の価値観や行動規範との整合性を図ることが重要です。例えば、サービス精神を重んじる企業では、顧客に厳しい態度をとることに難があるかもしれません。その場合、組織で許容できる範囲を明確にし、従業員への周知徹底が不可欠となります。
逆に、従業員の尊重や人権思考に基づく企業文化なら、顧客によるカスハラに対しては毅然とした対応が可能でしょう。マニュアルに自社の理念や行動指針を明記し、従業員への浸透を図ることで、カスハラへの対応も統一されます。
また、トップダウンでの方針徹底も企業文化との整合性を高めるポイントとなります。経営層が真剣にカスハラ対策に取り組む姿勢を示すことで、従業員の理解と協力が得られやすくなります。
まとめ
2022年のカスハラ対策義務化により、企業には実効性のある対策実施が求められています。法的根拠に基づく取り組みとして、相談窓口の設置、対応体制の整備、従業員研修の実施など、具体的な防止措置が必要です。
企業は従業員の権利と健康を守るため、こうした対策を形式的なものとせず、実態に即した実効性のある取り組みとして確立していく必要があります。経営層から現場までが一体となり、適切なカスハラ対策を通じて、全ての従業員が安心して働ける職場環境の実現を目指すことが求められています。
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