公務員はカスハラにどう対応すべき? 自治体の実例と職員を守る対策法

カスハラ 公務員 自治体

近年、公務員に対するカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻化しています。多くの自治体で公務員がカスハラを受けたという報告が上がっています。本記事では、カスハラの実態と自治体の対策事例を詳しく解説します。

さらに、職員保護に向けた条例制定と運用、防犯設備と記録システムの導入、職場環境の改善と職員のメンタルヘルスケアといった具体的な取り組みを紹介し、カスハラ予防と対応のための体制構築のために、どういった対応が必要なのかも詳しく説明します。

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公務員に対するカスハラの実態

近年、公務員に対するカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な問題として注目を集めています。ここでは、カスハラの定義と特徴、公務員へのカスハラ被害の現状と統計、そしてカスハラの具体的な発生形態と事例について解説します。

カスハラとは

カスハラとは、顧客や利用者から労働者に対して行われる不当な言動や行動のことを指します。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、要求内容の妥当性を欠き、実現手段が社会通念上不相当な行為と定義されています。

カスハラの特徴は、実際の利用者だけでなく潜在的な利用者も加害者となる可能性があることです。つまり、直接的な接点がなくても、公務員が不当な言動や行動の被害に遭う可能性があるのです。

公務員に対するカスハラの実態

全日本自治団体労働組合が実施した調査によると、過去3年間にカスハラを経験した公務員は46%に上り、その中には「日常的に受けている」方も含まれていました。また、職場で他の職員が被害を受けている場面を見たという回答を含めると、約76%が何らかの形でカスハラを目撃しており、職場全体で深刻な問題が浮き彫りとなっています。

この数字は、公務員がいかにカスハラの被害にさらされているかを如実に示しています。公務員の職場環境を守るためにも、早急な対策が求められると言えるでしょう。

カスハラの具体的な発生形態と事例

カスハラには様々な発生形態がありますが、特に発生頻度の高い行為として、暴言や説教(64%)、長時間の居座り(60%)、複数回に及ぶクレーム(60%)が挙げられます。また、暴力行為(14%)や金品の要求(13%)といった深刻な被害も存在します。

具体的な行為パターンとしては、以下のようなものがあります。

時間拘束型長時間の拘束行為、居座りの継続、執拗な面会要求
攻撃型暴言や侮辱的発言、名誉毀損行為、暴力的行動
その他の形態SNSでの誹謗中傷、セクシュアルハラスメント、執拗な要求の繰り返し

こうした行為は、公務員の業務遂行を妨げるだけでなく、精神的な負担を与え、職場環境を悪化させます。カスハラ対策は、公務員の健全な職場環境を維持するために不可欠といえます。

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自治体におけるカスハラ対策の実践例

続いては、先進的な自治体の実践例を通じて、職員保護に向けた条例制定と運用、防犯設備と記録システムの導入、職場環境の改善と職員のメンタルヘルスケアといった具体的なカスハラ対策について解説します。

職員保護に向けた条例制定と運用

カスハラ対策の基盤となるのが、職員保護を目的とした条例の制定です。京都市では「職務執行確保条例」を制定し、警告や警察機関への告発体制を整備しました。奈良市も「法令遵守推進条例」を施行し、悪質事例の氏名公表制度を導入しています。

伊方町では「不当要求行為等対策条例」を制定し、包括的なカスハラ対策に取り組んでいます。これらの条例により、職員はカスハラに毅然とした態度で臨むことができ、必要に応じて法的措置を取ることが可能になります。

条例の運用面でも工夫が見られます。札幌市では、広聴部門向けの専門マニュアルを作成し、30分から1時間を目安とした対応打ち切り基準を設けました。京都市は要望の書面記録化と年次公表を実施しています。これらの取り組みにより、カスハラ対応の標準化と透明性の確保が図られています。

防犯設備と記録システムの導入

カスハラ対策には、防犯設備と記録システムの整備も欠かせません。札幌市では通話録音の試験的実施を経て本格導入に踏み切りました。先述した伊方町は防犯カメラ9台を設置し、不当要求行為等への抑止力としています。

記録システムとしては、ボイスレコーダーの準備も有効です。音声記録があることで、加害者への警告にもなりますし、トラブル発生時の証拠としても活用できます。通話録音システムと併用することで、より確実な記録が可能となります。

防犯設備と記録システムは、職員の安全確保とカスハラ抑止に直結する重要な対策です。導入コストや運用面での課題もありますが、職員保護の観点からは積極的な整備が望まれます。

職場環境の改善と職員のメンタルヘルスケア

カスハラ対策は、物理的な環境整備だけでなく、職場環境の改善と職員のメンタルヘルスケアも重要なテーマです。愛知県内の自治体では、職員の個人情報保護のために、名札表記をフルネームから名字のみに変更しました。

職場環境面では、リラックスできる香りの活用、癒し効果のある映像の放映、鏡の設置による自己認識の促進など、ストレス軽減につながる様々な取り組みが行われています。また、複数名での対応体制、相談窓口の設置といった運用面の整備も、職員の精神的負担を軽減する上で効果的です。

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カスハラ予防と対応のための体制構築

自治体におけるカスハラ対策は、職員個人の努力だけでなく、組織全体で取り組むべき課題です。ここでは、カスハラ予防と対応のための体制構築について解説します。

組織的な対応マニュアルの作成と周知

カスハラ対策の第一歩は、組織的な対応マニュアルの作成です。マニュアルには、カスハラの定義、具体的な行為パターン、対応手順、エスカレーション基準などを明記します。

作成したマニュアルは、全職員に周知徹底することが重要です。定期的な研修や勉強会を開催し、マニュアルの内容を確認しましょう。また、庁舎内にカスハラ防止啓発ポスターを掲示するなど、常に意識を高く保つ工夫も効果的です。

職員研修と意識啓発の徹底

カスハラへの対応力を高めるには、まず職員一人ひとりの意識を向上させることが重要です。そのためにカスハラの実態や具体的な対応方法を学ぶ職員研修を開催している自治体もあります。特にロールプレイングなどの実践的な訓練を取り入れることで、現場で活かせるスキルを確実に身につけることができます。

また、日常的な意識啓発活動も重要です。庁内のイントラネットや広報誌を活用し、カスハラ対策に関する情報を発信しましょう。職員間でのディスカッションを促進し、問題意識を共有することで、組織全体の意識向上につなげることができます。

外部機関との連携と専門家の活用

警察や弁護士といった公的機関・専門家のほか、外部のコンサルタントや研修講師を招き、職員研修を実施したり、対応マニュアルの作成を依頼したりすることで、より実効性の高いカスハラ対策を定着させることも視野に入れましょう。専門家の知見を取り入れれば、自治体独自の課題にも柔軟に対応できるでしょう。

体制構築の要素具体的な取り組み例
組織的な対応マニュアルの作成と周知
  • カスハラの定義、行為パターン、対応手順等を明記
  • 全職員への周知徹底と定期的な確認
  • 庁舎内へのカスハラ防止啓発ポスターの掲示
職員研修と意識啓発の徹底
  • 定期的な職員研修の実施(ロールプレイング等の参加型手法の活用)
  • イントラネットや広報誌を活用した情報発信
  • 職員間でのディスカッションの促進
外部機関との連携と専門家の活用
  • 外部研修の導入
  • 警告や告発体制の整備
  • カスハラ対策専門家の活用(研修の実施、マニュアル作成等)

カスハラ予防と対応のための体制構築は、自治体の規模や特性に応じて柔軟に行う必要があります。組織的な対応マニュアルの作成と周知、職員研修と意識啓発の徹底、外部機関との連携と専門家の活用を通じて、職員を守り、業務の質を維持していきましょう。

カスハラ対策の法的対応とプライバシー保護

カスハラは公務員の職場環境を大きく損なう問題となっています。こうした事態に対し、被害者救済と加害者への適切な対応を行うため、法的な取り組みが進められています。

カスハラ訴訟の現状と具体例

カスハラに関する訴訟には、大きく分けて2つの形があります。1つは被害を受けた公務員が加害者に損害賠償を求める民事訴訟、もう1つは加害者が自治体の対応を争う行政訴訟です。具体例として、大阪市では職員への長期的な暴言や執拗な苦情に対し、70万円の損害賠償を求める訴訟が起こされています。

ただし、カスハラに関する判例はまだ十分に積み重なっておらず、明確な法的基準の確立には時間がかかる見通しです。

職員の個人情報保護と記録管理

職員を守るためには、個人情報の適切な管理が欠かせません。SNSでの特定や個人情報の悪用を防ぐため、佐賀市では名札をフルネームから名字だけの表示に変更するなど、具体的な対策を実施しています。

同時に、カスハラが発生した際の記録や証拠の保存も重要です。通話の録音や防犯カメラの設置により、事実関係を明確に残すことで、映像証拠に基づく職員の保護とその後の適切な対応が可能になります。

まとめ

公務員に対するカスタマーハラスメント(カスハラ)は、職場環境を著しく悪化させる深刻な問題です。自治体では、職員保護に向けた条例制定と運用、防犯設備と記録システムの導入、職場環境の改善と職員のメンタルヘルスケアといった具体的な取り組みが行われています。カスハラ予防と対応のためには、組織的な対応マニュアルの作成と周知はもちろん、外部機関と連携した職員研修の実施も有効です。

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